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続・守護者 灯昌 様 / 著

 あの、「アラクセイト誘拐未遂事件」なるものからすでに2日が過ぎた。

 病床から起きたソラミイノは、すまなそうにしょぼくれるアラクセイトから話の全貌を聞いた。



「つまり、どこぞの馬鹿がアークを連れて行こうとした訳ね?」

 にこやかに笑顔で応じたソラミイノ。

 その笑顔が引きつっていることに気が付いたアラクセイトは本能的にやばい、と思った。

 笑顔が笑顔であるほど、怖い。

 だが、アラクセイトに怒ってもしょうがないということが分かっていたソラミイノは頬を痙攣させながら、後ろで我関せずという態度をとっているガネルオージェへと矛先を向けた。





「それで?あなたはアークが市場へ行く事を分かっていながら、どこぞの阿呆に取り囲まれるとかいう事態を引き起こしてしまった訳ね?」

 その言葉を聞いた途端真っ先に反応したのはアラクセイトであった。

「ミッ、ミイノ、あんな事になったのは私が」

 ここまで言ったこの事件の主役は、次の言葉を親友の目線と声によって遮られた。

「アーク、いいのよ、悪いのはこの男なんだから。」かける声は穏やか。目線は口を出さない方が良いわよと語っている。

 その穏やかにかける声の裏に激怒という言葉があると経験上分かるアラクセイトは、背中にちりちりと居心地の悪いものを感じる。

(ガネルさんは守ってくれたのにぃ)

 本当はガネルに感謝すべきなのだ。

 感謝して当然、怒るだなんてもってのほか、である。

 そう伝えたいのはやまやまなのだが、只今怒り心頭中の親友にどう言えば分かってもらえるかがとても難しいところ。

 下手に言葉を使えば、今でも充分危ない火に油を注ぐことに。

(なっ、なにか良い言葉っ)

 焦りまくる彼女を尻目にソラミイノはガネルオージェへと向き直る。

「まぁ、過ぎ去ったことは仕方がないわ。・・・でもこれから先、もう一回でもこんなことがあったら」

 と、ここまで言ったソラミイノの言葉が止まった。

 今迄面倒くさそうに聞いていた金剛石の子供が何を思ってかいきなり言葉を出したからである。

 しかもソラミイノの目の錯覚か、一瞬笑い顔・・・・になったような。

「悪かった。二度と、あんな不始末は起こさない。」

 口を開いてきっぱりさっぱり淡々と告げたガネルオージェは、言い終った途端、何事も無かったかのようにすたすたと道を先に進んでいった。

 おもむろにガネルが口を開いたのでてっきり反論されると身構えていたソラミイノは、その告げられた内容にしばし時間を止める。

「え?・・ええ、分かってるのなら良いんだけど・・・」

 それでも、負けじと言葉を返したが。

 ほんの数秒の後、砂金水晶の子供が思ったことは1つ。

 思考停止の状態から戻ったソラミイノが考えたことは1つ。



(・・・この人何処か体の調子でも悪いんだわ、絶対!)

 でなければ、こんな反省する態度をあのガネルがとるはずがない!

 最初の、多分笑い顔・・・それに引き続き謝罪の言葉。

 ―――この世の中には不思議なことがある。奇跡としか呼べない事も。

 今ソラミイノの中に置いて世界で最も不思議な出来事は、ガネルオージェが謝った、というこの事実だったりした。



 一方ソラミイノの怒りを静める言葉を必死に探していたアラクセイトも「悪かった」と告げる声を聞いた。

 一瞬驚き、かみ締めながら思う。

(まただ、ガネルさん、また謝ってくれた・・・)

 少し先を歩く青年の姿を見つめながらどうしようもない気持ちが沸く。

 金剛石の子供、ガネルオージェに迷惑をまた掛けてしまった。そんな想いがあったから。

 

 アラクセイトが必死に考え込んでいるのを見やったガネルオージェは、助け舟を出したのだ。

 自分が謝ればすぐに片は付く。

 アラクセイトには彼がそう考えたことが分かった。

 怒っているソラミイノになんとか言葉を掛けようとたまたま目を上げた時。

 その瞬間何故だか分からないけれどアラクセイトとガネルオージェの視線がつながった。

 アラクセイトの困惑している表情を見たガネルオージェ。

 その顔を見た途端、彼は自分に向かい(しょうがないな)とでも言うように少し笑った。

 そしてその後すぐに彼はあの言葉を紡いだ。

 

 金剛石の子供である青年の笑った時間はとても短かった。一筋の風が通りぬける間よりも短い。

 視線が混ざり合い、彼はふっ・・と瞳を和やかにして風を誘うように笑った。

 少し穏やかで普段とあまりに違う笑みだった。

 その短い時間に心を一瞬奪われたのはイイタールの娘。

 笑顔があんなにも心打たれるものだと初めて知った。



 先を歩むガネルオージェは、我ながら何故笑ったのか、そして何故謝ったのか確固たる理由を探していた。

 意識せずに笑い、自然と言葉を乗せていた。

 どうしてだ、何故、何で、と心の中で繰り返しながら歩く。

 自分は一体、何の為に・・・



 街から街への短くはない距離を歩んで行く。

 進む方向は同じ、目的も一緒。

 三者三様の言葉通り、心で想うことは全く違っているけれど。



 

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