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Brunch 万殊(管理人) / 著

 バルヴァローズ最北の地といえど、すでに朝日は昇って久しいはずだが、少年の頭上には今にも地上に零れ落ちんとする重い雪が辛うじて天にぶら下がり、太陽神の恵みを全て取り払ていたので少年の視界には白と黒の二色の世界が広がっている。

 白は死の色―――全てのものから平等に熱を奪い去る残酷な雪の色。
 
 黒は生命の色―――雪の統べる世界で唯一の生命存在を伝える伝達たる、針葉樹の色。

 少年はその二色の世界の中をただただ歩いていた。

 何故歩くのか。

 その理由は単純にして明快なもの。

 自身の発狂を防いでいるのだ。

 彼は自分が発狂すればどのような事態が待ち構えているのかを知っている。

 故にそれだけは防ぎたいと思ったのだ。

 だがこの北方の凍てつく風は容赦なく彼を襲い、彼の体力を奪い去って行く。

 もう半日は歩き通している。

 

 彼は自分がこのままでは死神の導く世界へと旅立たねばならぬ事を知っていた。いや、本能で感じ取っていた。

 自分は、この未熟な自分はこれより先に何をしどうして行けばよいのか。

 その答えは出なかった。

 今の自分には何かを深く考えることは世界と心中することに等しいことだという事は揺るがし難い事実のように思える。

 それも良いとも思った。

 脳裏には今から半日前の師達の会話のみが何度も何度も繰り返される。




「何も破門するこた無かったんじゃねーの?」

 それが少年が昨日まで自身も泊まっていた宿の部屋の戸の前で24時間ぶりに聞く師匠の声だった。

 声の主たる師の名をトリノアークという。

 そして、再入門を嘆願するために戻って来たガネルオージェにはその声は救いの声といえた。

「私は元々あの瘴気が片付けば巣立たせるつもりでしたから。それにこれくらいの処分でなければあちらから苦情が来るでしょうしね」

「そうか。なら別に異存はねえよ」

「後ろめたいですか?」

「ヘ?」

「貴方がそうさせたのでしょう?」

「何の事だ?」

「しらばっくれても無駄ですよ」

「特に指示した覚えは無い。あいつが自分の判断でかってにやった事だ」

「そうでしょうね。あの子の未熟さが招いた結果でもあります。責めはしませんよ」

「いつから気付いてたんだ?」

「アラクセイトから話を聞いた時からです」

「どうしてカーラ達には黙ってた」

「あの子ならば若気の至りで済みますが,貴方ということになると今後珊瑚と真珠の聖石は激減するでしょうから」

「苦労をかけるな」

「まったくです」

「そろそろ限界だったんだ」

「あの子よりも貴方が先に我慢を覚える必要がありそうですね」

「無駄な事は嫌いじゃないのか?」

「そうですね」

「帰るか」

「急ぐ必要は無いでしょう?」

「それもそうだな」




 また、脳裏で繰り返された師と仰ぐ者達の会話。

 その会話の意味することを少年は理解できぬほど愚なる者ではない。

 一段と風が強く冷たくなった。

―――これは空間の覇者であり断罪者たるパルムローリ神の裁決か―――

 少年の体力は限界に近づいている。

 前方に洞窟が見えた。

 そこで休み、食事を取って体力を回復させなければ先に待ち受けるは永遠の眠りを意味する。



 だが、止まるということは今の彼にとっては発狂するであろうことに疑いの余地がない。






あとがき

師匠視点と同じ内容です。
違うのは時制だけです。
師匠篇の24時間と1,2時間後。

扉の向こうで聞いてるとこうなり間という。

と、いうわけでBrunch(遅い朝食)というタイトルに変更いたしました。

いや、確かに此れのタイトルを変えずに次のをブランチにすればよいのですが、
まぁそこは気分の問題です。
(04/5/11)

 

 

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